就労継続支援A型事業所とは、障害や難病を抱えている人が、雇用契約を結び支援を受けながら働ける福祉サービスです。障害に理解がある職員やスタッフが在籍しているため、安定した就労を目指せます。
この記事では、就労継続支援A型事業所の概要や利用方法、メリット・デメリットなどをご紹介します。
就労継続支援A型事業所とは、一般企業への就職が困難な障害や難病を抱えている方と雇用契約を結び、働く場と一定の支援を提供する福祉サービスです。以下では、就労継続支援A型事業所のサービス提供する目的や仕事内容、利用対象者などについて詳しくご紹介します。
就労継続支援A型事業所では、働く場を提供し賃金を稼ぎながら、一般企業への就職に必要なスキルやノウハウを学べます。働くための準備・スキルが整ったら、一般企業への就職を目指すことを目的としています。
主な仕事内容は、パソコンのデータ入力や倉庫での軽作業、清掃作業、レストランのスタッフなど様々です。事業所によって提供している仕事の内容が異なるため、自分に合う仕事を提供している事業所を選ぶようにしましょう。
勤務の基本は一般就労と変わりませんが、労働時間が4時間~8時間程度と一般就労より短いのが特徴です。体調が安定し、継続的に働く能力があると判断された場合は、希望すれば労働時間も長くなるように調整できます。
就労継続支援A型事業所では、利用者と雇用契約を結ぶため原則最低賃金以上の収入が保障されています。最低賃金は、各都道府県によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
また、就労継続支援A型事業所の賃金は、労働時間が短いことから一般企業よりも低い傾向となっています。また、雇用条件によっては一般企業と同様に、社会保険や雇用保険などが天引きされることもあります。
A型事業所の平均賃金は平成26年以降増加傾向にあり、令和2年度は79,625円となっています。
就労継続支援A型事業所の対象者は、身体障害や知的障害、精神障害を持つ方や、難病を抱える方です。また、利用できる年齢については、原則18歳以上~65歳未満の方とされています。この条件を満たしたうえで、下記のような方が利用できます。
ただし、これらの条件は各自治体によって異なる場合があるので、お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみましょう。 参考までに、令和2年3月時点での厚生労働省が発表した調査結果によると、就労継続支援A型事業所を利用する方は全国で約7.2万人と言われています。
就労継続支援A型事業所の利用料は、事業所への通所日数と世帯の収入状況によって異なります。通所日数が多いほど利用料も高くなりますが、前年の世帯収入によって月額の負担上限が設定されています。世帯年収別の負担上限額と区分は以下の通りです。
区分は「生活保護」となり、利用料の負担額は無料です。
区分は「低所得」となり、負担額は条件を満たす場合無料です。例えば本人が障害年金1級を受給しており3人世帯の場合、世帯収入概ね300万円以下の世帯が対象です。
細かな条件については自治体により異なるため、福祉窓口で相談してみるのが良いでしょう。
市町村民税非課税世帯であっても収入が上記の低所得世帯よりも高く、概ね600万円以下の世帯では、区分が「一般1」となり、毎月9,300円を上限として負担額を支払うことになります。
この基準も自治体により異なるため注意しましょう。
上記で説明した世帯収入に該当しない場合「一般2」の区分となり、毎月37,200円を上限として負担して利用することになります。
また、世帯収入が一般1に該当していても、本人が20歳以上の入所施設利用者、またはグループホーム利用者の場合は、この一般2の負担額となります。
利用期間には特に制限が設けられていません。ただし、就労継続支援A型事業所との雇用契約が有期である場合は、契約更新の有無によって利用期間が変更になるケースもあります。
就労継続支援A型事業所のほかにも、就労支援を受けられるサービスがあるのをご存じでしょうか。ここではそれぞれの概要と、サービス間の違いについてご紹介します。
就労継続支援B型事業所とは、障害や難病を抱える方で年齢や体力的な問題から一般企業への就職ができない方へ、軽作業などの就労訓練を提供する福祉サービスです。
仕事内容は、主に農作業やクリーニング業、手工芸など多岐にわたります。体調を考慮して自分のペースで働けるため、能力の向上が期待できることが特徴です。
仕事内容は軽作業のケースが多く、多くの事業所で年齢制限がありません。
また、就労継続支援B型事業所ではA型と違い、雇用契約を結ばないという特徴もあります。働いた対価は賃金ではなく、工賃として支払われます。
通所ごとに決まった値段が支払われる場合や、仕事の出来高で支払う場合など、工賃の計算方法は事業所によって異なります。
厚生労働省が発表した令和2年度の調査によると、工賃の月額平均は15,776円となりました。近年では、工賃をアップする取り組みが各都道府県で行われているようです。
就労移行支援とは、一般企業への就職を目指す方に対して、働くための知識やノウハウを身に着ける職業訓練や就職活動のサポートなどを提供する福祉サービスです。
一般企業への就職後は、6ヶ月の職場定着支援サービスも行っています。
職業訓練では、ビジネスマナーやコミュニケーションスキル、履歴書の書き方まで学べます。また、利用者に合わせて能力開発訓練や職場見学なども可能です。
就労移行支援は原則として一般就労を目指すサービスであるため、就労継続支援A型事業所との併用はできません。そのため、働くための準備をA型事業所で整えた後に、一就労移行支援で一般就労を目指すケースが多いようです。
実際に、平成27年時点で就労継続支援A型事業所から一般企業への就職率が4.3%であるのに対して、就労移行支援の就職率は22.4%と5倍近く、両サービスの違いがよく表れています。
なお、就労移行支援は利用期間が原則2年間と設定されています。ただし、必要に応じて最大12ヶ月の利用期間の更新が可能です。
また、就労移行支援事業所では雇用契約は結ばないため、工賃業務がある場合以外には基本的に賃金が発生しません。
就労定着支援とは、一般企業に就職された障害者の方が職場に長く定着できるように、様々なアドバイスやサポートを行う福祉サービスです。
就労移行支援にも定着支援サービスがありますが、自立を目指す障害者の方が増加し、定着支援の需要が高まったことを受けて、2018年に制度として独立しました。
就労定着支援は一定数の就職者を輩出している就労継続支援A型事業所や、就労移行支援などでサービスが受けられます。
サービス内容は、月に1回程度の面談や医療機関・福祉機関との連携などです。
現在の職場環境や生活リズムをヒアリングして課題を把握し、解決のためのアドバイスを提供するほか、必要に応じて医療機関・福祉機関と連携して本人が働きやすい環境を模索していきます。
就労定着支援は、就労移行支援の定着支援サービスの利用期間が終了して半年が経過したのち利用可能です。その後は1年ごとに更新が可能で、最大3年間利用できます。
就労継続支援A型事業所を利用するには、段階的な手順を踏む必要があります。以下では、具体的な利用方法についてご紹介します。
まずは、就労継続支援A型事業所の求人を探しましょう。求人は、お住まいの市区町村にある障害福祉課やハローワーク、インターネットから探すことができます。希望する事業所が見つかったら、電話や問い合わせフォームから問い合わせしましょう。
問い合わせ後は、実際に見学や体験を行います。見学や体験の際は、仕事内容だけでなく職場の雰囲気や職員、他の利用者の様子なども観察しておきましょう。
就労継続支援A型事業所の利用前には、面接を受ける必要があります。面接には、履歴書とハローワークからの紹介状が必要になる場合があるため、事前に用意しておきましょう。
面接では簡単な自己紹介の後、経歴や職歴などがチェックされます。
難しく考えすぎる必要はありませんが、特に障害の特性や健康状態については細かく聞かれる場合が多いです。このとき配慮してほしいことや苦手なことを明確に伝えておくと、入所後のミスマッチを防げるでしょう。
面接に合格し利用可能と判断された場合は、窓口で受給者証の発行を行います。
受給者証には利用者が受けるサービス内容や支給量などが記載されているため、障害福祉サービスの利用開始時までには所持していないと利用できません。受給者証の発行は、以下のような流れになっています。
利用するサービスの内容が確定したら、住んでいる市区町村の障害保健福祉課か障害福祉課で申請します。申請には、本人または保護者・代理人の来庁が必要です。
認定調査とは、利用者の心身状況を把握するために申請先の担当職員が身辺調査などを行うことです。本人や家族の状況、日中状況などを調査する「概況調査」や、心身についての80項目の質問「障害支援区分認定調査」により一次判定を行います。
これらの質問で把握しきれない部分については、記述式で本人の状況を調査する「特記事項」で把握することになります。
これら一次判定・特記事項に医師の診断書を添えて、二次判定の審査会で利用の可否が判断されます。
サービス利用計画案は、申請先の担当者にどの事業者でどのようなサービスを受けるかを説明するためのものです。作成は本人または指定特定相談支援事業者が行います。事業者が作成する場合は、サービス開始時のモニタリングとして活用可能です。
B型事業所以外のサービスでは、一定期間の暫定的な就労支援を行います。一般企業でいう試用期間のようなものですが、自分の希望に合った事業所かどうかを利用者側が判断するための期間でもあります。
期間は最大2ヶ月間で、過去に利用していた事業所を再度利用する場合は、暫定支給を行わないケースもあります。
個別支援企画は、利用者の目標達成や継続的なサポートを受けるための重要なものです。作成に関しては、指定特定相談支援事業者が利用者の体調や仕事の希望などをヒアリングして行います。
事業所によっては利用者の主体性を考慮し、一緒に作成していくケースもあります。
個別支援計画が受理されれば、利用者へサービス内容が通知され、その後受給者証が交付されます。交付までの期間は、1ヶ月~2ヶ月程度です。
就労継続支援A型事業所は、日々通所することでさまざまなメリットを得ることができます。以下では、得られるメリットについて詳しくご紹介します。
A型事業所を利用する際は、雇用契約を結ぶため原則最低賃金以上の収入が保障され、安定した収入が得られます。
就労継続支援A型事業所では、B型事業所と比べて一般企業に近い環境で働くことができます。 そのため、一般企業で求められるものに近い技能やノウハウを得られます。スキルアップができれば、一般企業への就職支援も現実的になってくるでしょう。
雇用契約により、労働基準法や最低賃金法などの労働関連の法律が適用されます。就労時間などの条件を満たせば、社会保険や雇用保険などへの加入もできるため、安心して働くことができます。
就労継続支援A型事業所の利用は、メリットだけではなくデメリットもあることを忘れてはいけません。以下では、デメリットについてご紹介します。
就労継続支援A型事業所では、福祉に詳しく障害者にとって居心地のいい職場環境が整っていても、経営に対するノウハウを持ち合わせていないケースがあります。
そのため、利用者ごとに適材適所の就労ができず、単純作業しか提供できないという状況にもなりかねません。
また、利用者がこうした状況に慣れてしまうと、一般就労を目指すモチベーションが低下してしまうリスクも考えられます。
雇用契約を結ぶ就労継続支援A型事業所では、利用者に最低賃金以上を支払わなければいけません。
そのため、経営能力が低いと賃金を支払えない事態に陥り、最悪の場合倒産してしまう可能性があります。
せっかく得られた就労機会を失うリスクを防ぐためにも、経営が安定している事業所を選ぶようにしましょう。
就労継続支援A型事業所は、特定求職者雇用開発助成金などの補助金を国から支給されます。
特定求職者雇用開発助成金とは、高齢者や障害者の方を雇用した場合に、1人あたり数十万円~数百万円程度を最長2年間にわたり分割で支給される制度です。
福祉企業の経営者からすれば非常にありがたい制度ですが、補助金のみを目的に短時間労働を強要する、または充分なサービスを提供しないなど、悪質な事業所もあるので注意しましょう。
注意点をいくつかご紹介しましたが、実際のところ何を基準に事業所を選べばよいか分からない方も多いでしょう。以下では、事業所を選ぶ際のポイントについてご紹介します。
仕事内容は、事業所によって大きく異なります。また、同じような仕事内容を提供していても細部で違いがある場合も多いため、見学の際には具体的な仕事内容をしっかりと確認しておきましょう。
事業所によっては、数日間の体験が行えるところもあります。体験の段階で、自分の能力やペースが作業内容と合っているかを確認しておきましょう。
事業所へ見学に行く際は、仕事内容や設備以外にも、他の利用者や職員の様子についても確認しておきましょう。利用するにあたり、あまりに忙しかったり反対に空き時間が多かったりするのは、ストレスに繋がる恐れもあります。ストレスが蓄積してしまうと症状の悪化にも繋がりかねません。
また、各利用者への職員の接し方などを確認しておくと、通所できそうな雰囲気であるかも把握できるでしょう。
給料は働く意欲を支える重要な要素のひとつですが、就労継続支援A型事業所では、利用者との間で合意があった場合に限り、最低賃金を下回る給料での雇用が認められています。
そのため、もしも最低賃金を下回る給料での雇用契約を提示された場合は、根拠をしっかりと説明してもらい、納得したうえで働くかどうかを決めましょう。
この記事では、就労継続支援A型事業所についてご紹介しました。就労継続支援A型事業所は、障害や難病を患い一般企業への就職が困難な方と雇用契約を結んだうえで、原則として最低賃金の保証のもと就労を支援する福祉サービスです。
利用できる年齢については、原則18歳以上~65歳未満の方が利用できます。利用には受給者証の発行が不可欠なので、発行までの流れを確認しておくようにしましょう。
これから就労継続支援A型事業所の利用を検討する方は、仕事内容や職場環境などを考慮して事業所を選び、一般企業への就職へ向けて進んでいきましょう。
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