発達障害は人によって症状が異なります。企業が個々に対応できることは限られているため、有効な処置が行えずに、業務に支障をきたす事態につながるケースも少なくありません。
ストレスを極力受けずに働きたい場合は「業務委託」や「フリーランス」で仕事をすることも検討しましょう。
この記事では、フリーランスの概要やフリーランスをおすすめする理由に加え、働く際の注意点と事前の準備についてもご紹介します。
フリーランスは、正社員雇用とは契約内容などが異なります。発達障害をお持ちの方でフリーランスを検討しているのであれば、まずはフリーランスの働き方について把握しておきましょう。
ここではフリーランスの働き方の特徴と、類似した就労体系との比較をご紹介します。
フリーランスは、特定の会社などの団体に所属せず、単発の仕事の契約を結び、委託内容を遂行することで報酬を得る働き方です。
ライティングや翻訳などの文筆業やデザイナーをはじめとするクリエイティブ職や、アプリやゲームのプログラミングといったIT職など、フリーランスとして働ける職業は多岐にわたります。
フリーランスとして働くには、以下のような方法があります。
フリーランスエージェントとは、営業から契約締結までのフリーランスに必要な手続きを代行する会社や、その担当者のことです。登録しておくことで、より効率的に多くの案件を獲得する効果が期待できるでしょう。
フリーランスと混同されやすい就労形態として、フリーターと内職が挙げられます。
フリーターは契約先の企業などの組織と雇用契約を結び、組織の下に属して働くことにより収入を得る働き方です。一方、フリーランスは、相手先と結ぶ契約は業務に関する内容についてのみで、相手先の組織には所属しません。
また、フリーランスは内職とも異なります。内職はメーカーや問屋などから提供された部品や材料を使い、製品・商品を作り上げる製造職です。
保護される法律もそれぞれ異なり、内職は家内労働法、フリーランスは独占禁止法・下請法などで保護されています。
発達障害者支援法によると、発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」と定義されています。
ただし、これらの障害は症状や特徴などが似ており、判別が難しいとされています。そのため、以下に挙げる障害の症状は、あくまでも参考程度にしてください。
ASDは自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群といった呼び方をされることもあります。
ASDの主な特徴は、コミュニケーションの障害です。相手の発言の意図や感情といった会話外の情報を読み取ることが難しく、トラブル発生の原因となることがあります。
また音や光、熱など特定の感覚が敏感あるいは鈍感な傾向にあり、そうした刺激に過剰なストレスを感じたり、逆に異常事態に気づかなかったりといった症状も特徴です。
順番の認識能力や視覚的・聴覚的情報の処理能力といった特定の能力に限り、学習が困難となっている障害です。最近では限局性学習症(SLD)と表現されることもあります。
この障害は、読み書き計算が必要となる場面で顕著に表れます。具体的には資料の読み込みや計算に時間がかかる、メモが取れないといった症状です。
ADHDは、不注意・多動性・衝動性の障害です。興味関心が他に移りやすいため、注意を意図する対象へ十分に振り向けるのが難しく、整理整頓が苦手、紛失物が多い、予定管理が十分に行えないといった問題が生じます。
感情が高ぶりやすくなかなか落ち着かない、金銭管理や順番待ちが苦手といった症状も特徴的です。
発達障害の方が気持ち良く仕事を続けるための方法としては、フリーランスで働くことがおすすめです。フリーランスであれば、仕事に必要なコミュニケーションやスケジューリング、通勤頻度、業務環境などをある程度、自分で選んで働けるでしょう。
ここでは、フリーランスのメリットについて紹介します。
フリーランスで仕事を行う際、契約先とのやり取りはメールやチャットなどの非対面コミュニケーションで済ませることもできます。苦手な相手と顔を合わせずに済むためストレスがかかりにくく、落ち着いて仕事を継続できるでしょう。
「フリーランスのメンタルヘルスに関する調査」結果レポートによると、正社員の仕事による疲労感を感じない割合は28.7%に対し、フリーランスは47.3%です。この結果からも、フリーランスは対人関係のストレスを解消しやすい業務形態といえるでしょう。
フリーランスの業務契約は一般的に、期日までに仕事を完成・提出することで達成とみなされます。完了までの細かい工程は要求されないことが多いため、自身の適切なペースに沿って仕事を行うことが可能です。突発的な用事が発生した場合も対処しやすいでしょう。
また、フリーランスは組織に属していないため、会社が主催するイベントや上司との付き合いをする必要もありません。
総務省統計局による平成28年度社会生活基本調査の結果によると、日本全国の1日平均通勤時間は1時間19分でした。これを長いと感じるかどうかは人それぞれですが、在宅でできるフリーランスを選べば、長時間の通勤をせずに仕事が行えます。
時間と交通費が節約できるだけでなく、通勤に伴うストレスや刺激を避けることができるため、感覚過敏の症状を抱える方でも仕事が続けやすいのです。
また、フリーランスの仕事場は指定されていません。自宅であればいくらでも働きやすい環境を整えられる他、仕事場を自宅に限定する必要もないため、喫茶店や図書館といった自身が快適な環境で仕事をすることもできるでしょう。
ただし、請け負った案件によっては「静かな環境が必要」「守秘義務があるため公共の場での作業禁止」といった条件が付くこともあるため、契約内容はしっかりと確認する必要があります。
フリーランスに限らず継続的なキャリアアップを実現するためには、継続的なスキルアップが欠かせません。フリーランスは組織に所属していないため、勉強会や講習といった学習の機会が定期的に与えられるわけではないためです。
スキルアップを図るなら、書籍やWebサイト、同業他社などを参考にして学習しましょう。事前の学習を積み重ねることで未経験の分野の業務も可能となり、仕事の幅が広がります。
また、コワーキングスペースやオンラインサロンなどの、他のフリーランスとの情報交換の場を用意することも効果的です。会話を通して仕事のコツや注意点などを見つけられるだけではなく、仕事につながる人脈づくりの場としても活用できます。
発達障害の方の場合、苦手なことは苦手な反面、独自の得意分野を持っている人も多いでしょう。
組織に所属する場合、必ずしも自分の得意なことを任されるとは限りませんし、任されたとしても、苦手な他の仕事も同時に求められるかもしれません。
それに対し、フリーランスの多くは専門知識や技術を活かし、特定の分野で成果を上げることが求められます。
フリーランスで自分の得意分野を活かして質の高い仕事をし、社会的にも評価を受けるならば、それは仕事を通した自己実現にもつながるでしょう。
フリーランスは個人の判断によて仕事を選択できますが、単独で働くという性質上、周囲からのサポートやフォローが難しくなります。ここでは、フリーランスとして働く際の注意点をご紹介します。
フリーランスには勤務時間や就労規則など、行動を拘束する要素がありません。そのため日々の勤労管理は全て自ら管理する必要があります。
生活リズムが崩れると仕事の能率が上がらないばかりでなく、体調を崩しやすくなるので注意しましょう。
就業前であれば就労移行支援、就業後は自立訓練(生活訓練)支援によって、健康・金銭面、コミュニケーションスキルなどを含めた自己管理のサポートを受けることが可能です。自己管理能力に不安がある場合は支援機関の利用も検討してみてください。
フリーランスは会社員に比べると収入が不安定です。将来の退職金や恵まれた厚生年金を見込むこともできないため、お金のことが不安になる人も多いはずです。お金の不安があるままだと、結婚・出産・子育て・老後などの将来の計画も成り立ちません。
フリーランスだからこそ、しっかりしたライフプランとそれを裏づけるマネープランが重要となります。将来の生活とお金のことをつねに意識しておくことが必要です。
雇用による勤務であれば、すぐに質問できる上司や、サポートしてくれる同僚が存在します。しかし、フリーランスではそうした上司や同僚にあたる人間がいません。そのため、ミスの対処などトラブルを全て自分で解決する必要があります。
また、得意な分野の仕事に専念しやすいのがフリーランスですが、それでも避けられない苦手な場面も出てきます。
例えば発注者の会社に直接出向き、コミュニケーションを取るべき場面が生じるかもしれません。その際、意思疎通がうまくいかないとトラブルになりがちです。
また個人事業主になると、日頃の経理事務や毎年の確定申告が欠かせません。これらの細かな事務仕事を苦手とする人もいるでしょう。
ミスやトラブルがあっても、会社員であれば即座に解雇されることは通常ありませんし、周囲のサポートが望めます。
しかしフリーランスの場合は、ミスやトラブルが原因で仕事が急遽キャンセルとなり、継続的な契約をしてもらえなくなる場合もあります。また、行政手続が疎かになれば不利益は大きいでしょう。
どのような仕組みを作れば、苦手な場面で生じるトラブルを最小限にすることができるかを予め考えておくことが大切です。
また、予防が万全とも限らないため、実際にトラブルが起こってしまった際にフォローのできる体制を構築しておくことも重要となるでしょう。
フリーランスは通常の雇用とは異なり、仕事量が一定ではありません。自分で受注を獲得するためには、まずはフリーランスとして働く前の準備を行いましょう。
発達障害者は医師からの診断書など必要書類をそろえ、自治体の担当部署に申請すると精神障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得できます。
精神障害者手帳を取得すると、一部の税金や治療費、交通費などが減免されます。また、居住地の地方自治体が用意している福祉手当等の受給資格の対象になる場合もあるため、手帳の申請時に併せて要綱を確認しておくといいでしょう。
フリーランスとして働き始めてしばらくは収入が少ないことが予想されるため、こうした補助制度は役立ちます。
フリーランスの職種を選択する際は、それまでの職場で得たスキルや経験に合致した契約を取りましょう。完遂できる仕事を選べば、仕事の確保と高単価案件の獲得につながります。職場での労働経験に自信がない方は、案件数の多いフリーランス募集サイトで探すことで、希望する条件に合致した仕事が見つけやすくなるでしょう。
また、前述したように、フリーランスはお仕事が一定ではありません。そのため、収入が安定するまでに生活費を補う資金を用意する必要があります。フリーランス業務紹介サイトのフリーランス名鑑が実施したアンケート調査によると、フリーランス開始1年目の年収は82%が200万円未満となっています。
フリーランスの仕事場を選ぶ際、通信環境と電源環境は必ず用意しましょう。また、作業が滞る事態を防ぐためにも、十分な速度の回線が必要です。
文字のみのやり取りだけであればアップロード・ダウンロード共に100Mbps以下でも十分に機能しますが、画像や動画を頻繁に送受信する場合は200Mbps以上の速度の回線を用意しておくのが望ましいとされています。
また、長時間の作業を継続するためには、作業機器への充電も必要です。一部の喫茶店や飲食店ではこうした電源環境を準備していない店舗もあります。
そうした場所で作業を行う際はバッテリー充電器などを自前で用意しておき、他の利用客や従業員の妨げとならないように業務に取り組みましょう。
一般的にフリーランスは相手から仕事を持ちかけられることはなく、自ら働きかけて相手を探し契約を結びます。仕事を探す際は、フリーランスエージェントやクラウドソーシング、求人サイトを利用すると効率的です。
また、実際にフリーランスの仕事を行ってみると、「フリーランスは向いていなかった」と気付くこともあるかもしれません。
あとから後悔することを防ぐためにも、在職時から無理のない範囲でフリーランスの仕事を開始し適性を確認するとよいでしょう。
ただし、在職時からフリーランスとして案件を取得するのであれば、在職している会社が副業を許可しているかどうかを確認しておかなければなりません。
フリーランスは労働時間や勤務場所など、仕事に関わるさまざまな環境を最適な状態に設定することが可能です。同じ診断名であっても症状によって必要な対応が異なる発達障害の方にとって、働きやすい就業形態であると言えるでしょう。
ただし、フリーランスは個人で仕事を行うため、正社員などと働き方は異なります。フリーランスとして働く前に、準備期間や適性を判断する機会を設けましょう。
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