難聴を抱える方は長く働きやすい職場や業種、長く続けられる仕事への就業が困難な場合があります。本記事では、難聴を含む聴覚障害の特性から、仕事上の悩みや対策、働きやすい仕事や就職・転職活動の進め方、仕事探しに役立つサービスなどを解説していくので、自身の就労や障害を持つ方へのサポートに役立ててください。
音が聞こえなかったり、聞こえにくかったりする状態を聴覚障害といいます。聴覚障害といってもその程度はさまざまで、全く聞こえない状態もありますが、それが全てではありません。ここでは、聴覚障害の種類について解説します。
難聴とは、聴力が残っているが聞き取り辛い状態です。聞こえの程度は人により異なり、障害の原因になっている部位によって分類があります。
伝音性難聴は外耳、中耳の障害による難聴で、音が伝わりにくい状態です。音を感じ取る内耳や神経、脳に支障が無ければ、補聴器を使用して伝わる音量を調整することで聞こえやすくなったり、医学的治療で改善したりすることもあります。
感音性難聴は内耳、聴神経、脳といった音を感じ取る器官の障害による難聴です。そのため、補聴器などで単純に音を増幅するだけでは聞こえません。大きな声で話しかけられると、かえって音の歪みが増幅されて聞き取れなくなることもあるのです。高音域の音が聞き取り難かったり、複数の音を同時に聞いた時に聞き分けることが難しかったりします。
混合性難聴は、伝音性難聴と感音性難聴の両方が組み合わさった状態です。老人性難聴などが多く該当します。人によって伝音性難聴と感音性難聴のどちらの特徴が強く出るかは異なるため、対処方法もさまざまです。
中途失聴は音声言語の習得後に聴力を失った状態です。聴力を失う原因として、病気や事故による怪我が挙げられます。コミュニケーションを取る場合、手話ではなく言語を使うことが多い傾向です。そのため周囲からは障害があることに気付かれにくく、社会的な理解や支援が遅れています。
ろうは、音声言語の取得前に聴力を失ったり障害を負ったりした状態です。法制上の「ろう」とは、聴力が両耳とも100dB以上で身体障害者手帳2級に相当する状態や、日常会話の第一言語として手話を用いる方を指します。
聞こえなかったり、聞こえにくかったりすることは仕事の上で支障になりますが、具体的にどのような形で支障になるのでしょうか。難聴であることによって、実際にどのような悩みを抱えることになるのか解説します。
聴覚障害があると相手の話が聞き取りにくいだけでなく、会話の中から自分が受け取った情報が間違っていないか確認することが難しくなります。特に会議のように多人数が同時に話をするシーンで、誰が何を話したのか、どのように話が進んでいるのかなどが把握しづらく、話についていくこと自体が困難です。
何度も聞き返して会話をさえぎることに対するためらいが発生する他、単語の聞き分けのために読話をするせいで会話を理解するのに疲労が伴うなど、さまざまな問題があります。
聴覚障害のある方の中には、内耳に障害を持つ方もいます。内耳は平衡感覚をつかさどる器官なので、目まいや吐き気といった身体的な不調を起こしやすく、気圧や天候の変化の影響も受けやすくなるのが特徴です。
職場で仕事をしていく上で、聴覚障害のある方はさまざまな工夫や対策をしながら取り組んでいます。対策方法の一例は以下の通りです。
ここまで挙げたのは、悩みへの対策として自分でできる方法です。しかしそれで十分とは限らないので、周囲の配慮やサポートを求める場合もあります。
聴覚障害といっても、人によってさまざまな障害のパターンがあり、対処法が異なります。音の聞こえにくさにも違いがあるので、理解していないとコミュニケーションが取りにくいでしょう。コミュニケーション方法も、手話や補聴器を用いた言語でのやり取りなどとさまざまです。正確なコミュニケーションを取るために、メモやスマートフォンなどツールを揃えておくことをおすすめします。
また、聴覚障害を持っている事実を周囲に伝え、自ら動く姿勢も大切です。そうした工夫により、雑音や音の反響が少ない席で仕事をさせてもらう、情報を文字で読めるようにしてもらうなど、就業環境を整えてもらえるでしょう。加えて、天候や気圧によって体調不良になる聴覚障害の方はあらかじめその旨を上司や同僚に伝えておくと、休憩や欠勤への理解を示してもらえるケースもあります。
自力での努力は工夫できるとしても、無理なく働ける業界や職種の方が働きやすいのは事実です。それでは、難聴の方が働きやすいのはどのような仕事でしょうか。おすすめの業界や職種を紹介しますので、参考にしてみてください。
医療・福祉関係の業界は、業界の性格上、障害への理解や配慮を得やすく、サポートも期待できるでしょう。パソコンと向き合っての作業が中心となるIT・通信・インターネット系の業界では、連絡などもチャットやメール、バックログといったツールを活用できるので、聞こえづらさがハンデになりにくい傾向があります。
また、小売・流通・商社系でも、職場によっては満足して働ける場合が多いようです。客層によりますが、ゆっくりと丁寧に話せる環境だと難聴でも対応しやすく、店舗や店頭であれば電話応対の必要性が低いため、音の聞き取りや会話が苦手な方でも働けます。
聴覚障害の方におすすめの職種として、事務職が挙げられます。事務職というと電話対応のイメージが強いかもしれませんが、実際は電話応対以外にも入力作業やファイリング作業などが多い職種です。聴力に障害があるのは、逆に考えると聴覚によって集中を妨げられることがないともとらえられ、高い集中力を必要とする入力作業に適しています。
また、在庫管理やメール便の管理といった軽作業系の職種は、聴覚よりも視覚が重要な場合が多いため、聴覚障害のある方でも活躍できる可能性があるでしょう。PCやプログラミングなどIT系のスキルのある方であれば、ITエンジニア系の職種もおすすめです。高い水準の技術を身に付けて高収入を目指すことも不可能ではありません。
難聴の方は、どのように就職・転職活動を進めれば良いのでしょうか。ここでは、難聴のハンデを持つ方が就職・転職で失敗しないためのコツを紹介します。
採用には通常、一般採用枠と障害者採用枠があります。障害者採用は障害者手帳を持っている方しか受けられないので、積極的に応募してみましょう。障害者採用枠を設けている会社であれば、過去に障害を持った方が採用された実例を持っている場合がほとんどです。そうした実例は障害に対する理解や配慮、サポートを判断する上で参考になります。
なお長く働きやすい会社は、障害者採用枠の有無ではなく、「聴覚障害に対する理解がある職場」です。丁寧に質問に応じてくれるだけでなく、会議やミーティングの席で音声認識アプリなどの活用に理解がある職場をおすすめします。
また、障害があることを周囲に明らかにしない「クローズ就労」という方法もありますが、配慮やサポートが得られないのがデメリットです。難聴の程度や職種によっては自己努力でカバーしながら働けますが、心身への負担は大きくなり無理が生じてしまうケースもあるでしょう。ハンデを持つ方が無理をすると、健常者以上に負担が大きくなる場合もあるため、障害を明示して就業するオープン就労の方が安心かもしれません。
職種や業界の特性上、どうしても相性が悪くて働き続けるには難しい仕事も存在します。例えば、建設・土木業界の仕事は残業も多く、屋外での作業では聴覚障害が事故のリスクを高めてしまうこともあるのです。また、指示の聞き逃しもケガや事故につながります。金融・保険業界もあまり適していません。なぜなら、サービスを細かく説明する必要がある上に、コミュニケーションを取る機会が多く、うまくできないジレンマでストレスを感じるからです。
これらの仕事よりも、聴覚障害の特性を逆に強みとして生かせる仕事を選ぶ、という考え方を持ちましょう。聞こえなかったり聞こえにくかったりという特性は、聴覚からのノイズで集中が妨げられるきっかけがないので、集中力の高さにつながります。また、自分自身が情報を得にくい状況にあることから、正しい情報を得ようとする努力や意識が高まり、同時に相手の視点に立って伝えるという姿勢も生まれるのです。そのため、熱心に聞こうとし、丁寧に相手に伝える姿勢が評価される仕事が向いています。
就職先の障害への配慮・取り組みを確認できるチャンスがあるなら、実際に働く前に詳細をチェックしましょう。事前に職場の見学ができる場合は、企業から得られる障害への配慮や社内設備を実際に見られるため、働きやすい職場探しに役立ちます。職場を見学するだけでなく、面接の場で障害を伝えることも、障害配慮の取り組みを確認する上で効果的です。その際は、障害の程度について「補聴器があれば日常会話には困らない」「ゆっくりはっきり話してもらえればおおむね理解できる」など、具体的に伝えましょう。
それでもなお難しい点について、どのようにカバーしたいのかを「筆談用のボードを使いたい」「筆談のためにメモとペンを使いたい」「会議などの場面では音声認識アプリを使いたい」などのように伝えてください。職場で一緒に仕事をする方々との情報共有の仕方まで求人情報で明確にしているケースは少ないので、職場の実情を確認したり、要望について伝えたりする工夫も必要です。こうした要望や確認に対する反応から分かることも多いでしょう。
難聴でも働きやすい仕事探しは、一人で進めるのではなく、相談や履歴書などの書き方の指導、面接対策や求人の紹介、終業後の相談などに対応してくれるサービスの支援の活用がおすすめです。ここでは支援サービスの一例を紹介します。
ハローワークには、障害がある方のために専門の職員や指導員が配置された専門援助部門があり、求人の紹介から就業後のサポートまで、一貫した職業紹介と就業指導を行ってくれます。ハローワーク主催の面接会があったり、障害者雇用の合同面接会を紹介してくれたりする場合もあるので、利用してみましょう。就職までだけではなく、就職後も専門的な知識をもった援助者(ジョブコーチ)が障害者が継続的に就業できるように企業に助言を行う取り組みもあり、安心です。
ハローワークを経由しての就業だと、トライアル雇用もあります。これは障害のある方を原則3か月試用することで、企業側が障害の特性や障害者雇用について知り、働く側も試行終了後の常用雇用に移行しやすくする試みです。トライアル雇用は常用雇用とは別の契約で働くもので、ハローワーク経由でなければ利用できません。
ハローワークは国の機関ですが、民間の企業で障害のある方の就職を支援する、障害者向け就職・転職エージェントも利用できます。氏名・年齢・住所・連絡先といった個人情報や、職歴、志望、障害の内容といった情報を登録しましょう。登録後、エージェントの担当者と仕事に関する希望や障害の状態・程度について面談を行い、その結果に基づいて求人の紹介をしてくれます。
また、ハローワークなどには公開されていない非公開の求人情報ももっている場合があり、自分で調べるだけでは見つからない企業の情報を見つけられるでしょう。採用や就職・転職に関して豊富なノウハウの蓄積があるエージェントから、客観的に見た意見を得られるので、応募すべき企業や取り組み方の修正点が分かります。
障害者向け就職・転職エージェントといっても、働く準備ができている方だけに向いているサービスではありません。中途失聴や難聴で聴覚障害者としての社会人経験が少なく、自分に必要な合理的配慮が分からないという方向けに、就労移行支援サービスを提供しているエージェントもあります。就労移行支援のサービスを利用して働く準備をしながら、仕事を探すことも可能です。就労移行支援では、スキルや経験といった仕事の面だけでなく、障害に対してどのような配慮が必要なのかを明確にするという自己分析も行えます。
難聴の方は、長く安定して働ける職場や働きやすい業種・職種の選択を難しいと感じる場合があります。難聴を含め、聴覚障害といっても症状や程度はさまざまなので、対処方法を一言で表すのは困難です。そのため難聴を抱えつつ働く方は、自分自身でできることや周囲への働きかけなど、いろいろな対策を取りながら働いています。
これから就職・転職するという方は、障害の特性を逆に強みに考えたり、カバーしやすい仕事を選んだりする工夫が大切です。無理せず働き続けられる就職・転職を重視しましょう。そうした就職・転職を行うなら一人で取り組むのではなく、専門的な支援や助言を得られたり、非公開の求人情報を持っていたりする専門のサービスを利用するのも有効です。
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