2021年3月から、民間企業における障害者法定雇用率は従来の2.2%から2.3%に引き上げられました。障害者雇用に対する取り組みは、企業にとって欠かせないものとなり、制度の正しい理解や成功事例の研究が必要とされています。
この記事では障害者雇用に関する制度の概要と、最近の調査から障害者雇用率の高い企業のランキング、障害者雇用に積極的な企業の取り組みの例をご紹介します。
障害者雇用とは、事業主や自治体が「障害者雇用枠」で障害者を雇用することです。障害の有無によっては、就職時に障害のない人よりも不利になってしまう場合があります。そのため、障害がある人でも働く機会を平等に設けているのが障害者雇用枠です。
障害者雇用は「障害者雇用促進法」によって、規定が定められています。この法のなかには、企業に対し一定の障害者を雇用することを定めた「法定雇用率制度」というものがあります。2021年3月に、民間企業の法定雇用率は2.3%に引き上げられました。
なお、障害者雇用枠で働くためには障害者手帳の保持が必要です。具体的には、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳や愛の手帳などが挙げられます。
では、障害者雇用促進法の具体的な内容を見ていきましょう。
障害者雇用促進法には、主に3つのポイントがあります。
前述したように、企業は障害者を一定の割合で雇用することが義務とされています。この一定の割合を「障害者雇用率」と言います。現在は、法定雇用率2.3%としており、従業員数43.5人以上の事業主は障害者の雇用義務が課せられます。
また、事業主が障害者の雇用に配慮をした子会社を設立し、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして実雇用率を算定できる特例子会社制度や、企業グループ全体で実雇用率の通算が可能になる企業グループ算定特例といった制度もあります。
労働者の募集や採用の際に、障害の有無によって拒否するなどの差別は禁止されています。そのため、障害者を理由に募集対象から除外したり、不利な条件を提示したりしてはなりません。
なお、就職後の待遇も同様に、障害の有無によって福利厚生などの待遇を差別してはいけません。
そのほか、事業主に対して「合理的配慮」の義務が課せられています。合理的配慮とは、障害がある人が障害のない人と同様に働けるよう、職場環境や業務内容を一人ひとりの特性に応じて調整・変更することです。障害者雇用に対する合理的配慮の具体的な例は、以下のようなものが挙げられます。
ただし、実際にどのような支援を受けることができるのかについては状況によって異なるため、企業側での合意のもと、お互いが無理のない範囲で配慮について話し合うことが大切です。
厚生労働省の発表資料によると、雇用障害者数、実雇用率ともに2003年以降17年連続で上昇しており、2020年の雇用障害者数は対前年3.2%増の57万8,292人、実雇用率は対前年比0.04ポイント増の2.15%を記録しました。
とりわけ精神障害者と知的障害者の雇用数が大きな増加傾向にあり、これはハローワークにおける障害者の新規求職申込件数において精神障害者と知的障害者の求職の割合が増加していることとも一致します。
一方で、法定雇用率を達成した企業の割合は、対前年比で0.6%上昇したものの48.6%に留まっています。
「障害者雇用を進めたいが社内の理解を得られない」という声が多くの企業から挙げられています。これから本格的に障害者雇用に取り組もうとする企業の場合、知識やノウハウの蓄積が少ないこともあり、雇用の方針や進め方について社内に理解を広めることが課題となることが多いようです。
一方で、雇用された障害者を迎える現場においては、障害特性についての理解や業務とのマッチング、マネジメントの方針といった、障害者と働くための具体的な情報や知見が不足している様子がうかがえます。
すなわち、障害に関する知識や障害者のマネジメントに関するノウハウの不足などが障害者雇用に対する不安を生み、企業としての取り組みの障壁になっていると言えるでしょう。
このような不安を解消するためには、現場から上がってくる不安や疑問にしっかり答えられるよう、社内全体でサポート体制を作ることが効果的です。
人事と現場責任者の情報共有を密にし、配属の決定方法、業務内容や評価の基準、面談の時期と回数、トラブルが発生した際の相談窓口などを明確に設定しましょう。
また障害者雇用の取り組みについて社内の理解を得るためには、障害者の雇用方針が企業全体の理念や雇用の方針と一致していることが重要です。
障害者雇用が企業の社会的責任を果たすための義務であることを説明するだけでなく、なぜ雇用するのか、どのような計画・方針をもって雇用を進めるのかを自社の企業理念に照らして丁寧に説明しましょう。
ここでは、雇用率の高い企業20位までのランキングと、ランキング5位以内に入った企業についての詳細をご紹介します。
東洋経済新報社の「CSR企業総覧(雇用・人材活用編)」2019年版のデータから、2017年度における障害者雇用率の高い企業上位20社とその障害者雇用率をご紹介します。
障害者雇用率ランキングトップ5に入った企業について、その取り組みをご紹介します。
2003年に設立されゼネラルパートナーズは、障害者の就職・転職に関するサービスを提供する企業です。障害者の求人情報・人材紹介サービスをはじめ、就労移行支援事業、就労定着支援事業、就労継続支援A型事業など、障害者総合支援法下の複数のサービスを展開しています。
従業員数は89人と小規模ながら48人の障害者を雇用し、実雇用率は20.92%にも上っています。
広島県に本社を置く弁当・惣菜容器最大手のエフピコは障害者雇用率上位の常連企業です。2019年は377人の障害者を雇用し雇用率は13.78%となりました。
特例子会社のエフピコダックスや就労支援A型事業を展開するエフピコ愛パックをグループに持ち、使用済み容器の選別工場や折箱容器の生産構造などにおける基幹業務において障害者を正規雇用しています。また、同社は取引先企業の障害者雇用サポートにも取り組んでいます。
音楽を中心としたエンターテイメント企業として有名なエイベックス株式会社も3位にランクインしました。2019年は21名の障害者を雇用し、雇用率は7.09%です。
エイベックスでは障害者向けにバリアフリーのサテライトオフィスを設置しバックオフィス業務を任せるほか、現場アシスタントなどに障害者を積極的に採用しています。また、障害者スポーツに特化した部署を設置し、国内外の大会や講演会、メディア露出による広報活動も展開しています。
工場用搬送機械メーカー最大手のキトーでは、2019年は34人の障害者を雇用し、雇用率は6.92%となりました。5カ年計画の「障がい者雇用マスタープラン」を策定し、障害者の個性を重視した配属や、支援者・家族との連携などを展開しています。
なお、2017年度の「障害者雇用優良事業所等の厚生労働大臣表彰」において、 障害者雇用職場改善好事例の最優秀賞を受賞しています。
ユニクロ、ジーユーを展開するファーストリテイリングでは917人の障害者を雇用し、雇用率は5.62%になりました。1店舗1人以上の障害者雇用を目標に掲げ、2012年度以降新店を除くほとんどの店舗でその目標を達成しています。
さらに、人事部内に障害者雇用専任者を配置するほか、ジョブコーチにより職場での課題に対応するなど、全社的なサポート体制を構築しています。また、精神障害者の雇用にも注力し、本社で8人の採用実績があります。
障害者雇用を行って障害者を雇い入れることは、企業と障害者本人それぞれにどのようなメリットがあるのでしょうか。
企業におけるメリットとして、様々な助成金を受け取れることが挙げられます。助成金には、障害者手帳を持たない難治性疾患患者・発達障害者を雇用保険の一般被保険者として雇用する場合に受け取ることができる特定求職者雇用開発助成金や、障害者または発達障害者を週20時間以上の勤務が可能になることを目標として試行雇用を行う場合に受けることができるトライアル雇用助成金など、さまざまあります。
また、障害者雇用率の高さがメディアで紹介されたり、厚生労働省や自治体などに表彰されたりすることによって、優良企業としての認知の高まりが期待できることが挙げられます。単に障害者の人材を確保しやすくなるだけでなく、商品・サービスや企業の社会貢献についての認知が広まり、企業活動全体に良い影響が出るでしょう。
障害者本人にとって、障害者雇用で働くことの最も大きなメリットとして、障害特性にあった配慮を受けて仕事ができることが挙げられます。人事担当者や職場の同僚・責任者が障害を認識し、自分に合った仕事の進め方ができることは、業務の効率を上げるだけでなく、心理的な負担を減らすことやコミュニケーションを円滑にすることにも役立ちます。
また、障害者雇用では長期的な職場定着を目的として通院や体調に合わせた時短勤務などが雇用条件に折り込まれていることが多いため、体調の悪い日には休暇を取るなどの柔軟な対応が可能です。
障害者雇用に積極的な企業の特徴、また企業が障害者雇用に積極的に取り組む理由とはどういったものでしょうか。
障害者雇用率は産業別に大きな差があり、実雇用率が全体平均を超える業種としては、医療・福祉業、生活関連サービス・娯楽業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸・郵便業、製造業があります。
また従業員数が多い企業ほどCSRやSDGsの観点から障害者雇用の必要性を感じ、実際の取り組みを行っているとの調査結果もあります。
優良企業とは、資産や利益のみで測れるものではありません。CSR、すなわち「企業の社会的責任」もまた、企業の価値を測る重要な指標となります。企業が障害者を雇用するということは社会において障害者が活躍できる場を提供するという意味をもつため、大きな社会貢献となり、CSRの実現に繋がります。
「社会的責任を果たす企業」として企業価値を向上させるために、障害者雇用に取り組むことは大きな意義があるでしょう。
障害者雇用率ランキング20位以内には入らなかったものの、障害者雇用に積極的に取り組む大手企業もあります。
この項目では次の4社をご紹介します。
楽天株式会社の特例子会社である楽天ソシオビジネス株式会社では、開発・バックオフィス業務など楽天グループ内のアウトソーシング業務に加え、楽天本社ビル内での店舗運営などの事業を運営しています。従業員数179名のうち138名が障害者であり、管理職ポストの約6割を障害者です。
障害の有無に関係なくチャレンジできる環境を整備することで、社員と会社の成長を目指すことを目指し、従来の特例子会社の枠を超えて単独での黒字化を目標としています。
リクルートグループでは、障害の内容に合わせて業務内容の異なる特例子会社を3社設立しています。リクルートグループの総務・経理などバックオフィス業務を行うリクルートオフィスサポートでは、全従業員430名のうち359名の障害者を雇用しており、通勤や通院など障害者ならではの不自由さをフォローする社内制度や、地方在住の障害者に向けた在宅勤務制度などを整備しています。
さらに、2008年に設立された特例子会社のリクルートスタッフィングクラフツは、重度の知的障害者の業務領域を確保する目的で設立され、埼玉県を中心に9ヶ所の事業所を開設しています。障害特性を活かした手すき紙製品やハンドピックのコーヒー豆などの製造販売が主な業務です。
全国にスーパーマーケットを展開するイオンリテール株式会社も障害者雇用を積極的に行っている企業です。食品の品質をチェックするクオリティ・キーパーや、商品の補充、バックオフィス業務、売り場案内、薬剤師など多岐にわたる職域で障害特性に合わせた配置を行い、1800名以上の障害者を雇用しています。
またイオングループはアビリティーズジャスコという特例子会社を持ち、障害者就労移行支援や定着支援を促進するサービスも行っています。
トヨタ自動車株式会社が2008年5月に設立した特例子会社であるトヨタループス株式会社は、障害者の雇用の輪(ループ)を拡大していくという思いから名付けられた会社です。2020年時点で全体の約8割にあたる313名の障害者を雇用しており、トヨタグループ内の社内文書の印刷や社内郵便の集配達、オフィスサポートなどの業務を行っています。
社屋の建設にあたっては、専門家や障害当事者によるユニバーサルデザイン研究会が組織され、トヨタグループの新基準となり得る「“オール5”のバリアフリー施設」を目指した設計がされました。
障害者の雇用機会を広めるとともに、グループ企業に対して障害者雇用を広めるための情報・ノウハウの提供を行うことを企業ミッションとして掲げています。
今回のランキングでは、小売業やサービス業など業種にかかわらず、障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業がありました。各企業が様々な工夫をして障害者雇用に取り組んでいることがわかるでしょう。障害者雇用をご検討の方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
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