ADHDとは、Attention-Deficit Hyperactivity Disorderの略語で、「注意欠陥・多動性障害」を意味する発達障害の一つに分類されています。
発達障害は、脳の前頭葉における機能障害と考えられており、行動のコントロールや注意を司る機能に偏りが見られます。現在では子供のうち、20人に1人程度はADHDを抱えていると報告されています。
ただ、大人になるにつれて、元々の傾向に変化はないものの、症状の一部が軽減され、ADHDと診断されない状態にまでなる人もいます。そのため、一見すると健常者に思われがちですが、社会生活やとりわけ仕事に困難を抱えているADHDの方も多くいます。
この記事では、そんなADHDの方に向いている仕事と、続かない仕事を天職にする仕事術をご紹介します。
ADHDの症状は、主に「不注意」と「多動・衝動性」が挙げられます。それぞれの特徴を以下で詳しく見ていきましょう。
不注意型の人は、「すぐに気が散ってしまい注意を持続するのが難しい」、「整理整頓や片づけが苦手」、「忘れ物やなくしものが多い」、「ケアレスミスが多い」などの特徴があります。
「すぐに気が散ってしまい注意を持続するのが難しい」人は、興味のまま目に入ったもの、思い出したことに気を取られてしまい、仕事への集中力を持続するのが苦手です。
「整理整頓や片づけが苦手」な人は、必要な物やいらない物といった整理整頓の判断が苦手なため、片づけができず、物をため込みがちになります。
「忘れ物やなくしものが多い」人は、学校や職場でも忘れ物をしがちで、仕事に必要なものを忘れるうえ、同じ物を何度も紛失し、さらには、人から物を借りていることを忘れてしまうこともあります。そのため、人間関係でトラブルが起きてしまうこともあります。
「ケアレスミスが多い」人は、テストや重要な書類に名前を書き忘れるなど、うっかりミスをしがちです。また、書類の数字を間違えるといったケアレスミスも多く、こうしたことを繰り返すことで、上司や同僚などから信用を失ってしまい、職場で孤立を深めてしまうことがあります。
多動・衝動型の人は、「気が散りやすく、じっとしていることが難しい」、「貧乏ゆすりなど、常に身体を動かしていないと落ち着かない」、「反射的に行動してしまう」、「マルチタスクやスケジュール管理をこなせない」などの特徴があります。
「気が散りやすく、じっとしていることが難しい」人は、だまっていることや、じっとしていることが苦手で、静にしていることが難しいという特性があります。そのため、注意を受けても、会話を止められない、座ったままでいられずに立ち歩いてしまうといった行動が見られます。
「貧乏ゆすりなど、常に身体を動かしていないと落ち着かない」人は、貧乏ゆすりを止められず、顔や身体などを触り続けるなど、じっとしていることが苦手です。
「反射的に行動してしまう」人は、興味のある事柄を、見たり感じたりすると、反射的に行動してしまいます。例えば、行動をコントロールすることを苦手としているので、列に並ぶことや、順序を守って取り組むことが厳しく、同じ行動を繰り返すことに困難を覚えます。
「マルチタスクやスケジュール管理をこなせない」人は、仕事に取り組みながらも、目移りを繰り返し、複数の作業を衝動的に行います。しかし、どれが優先度の高い作業か判断できず、また、集中力が持続しないといった特性もあるため、結果としていずれの作業も未完成に終ってしまうことも多くあります。
ADHDの人の特徴は仕事において、どの様なハードルに繋がるのでしょうか。
集中力が持続しないため、仕事が進まず、会議中に寝てしまうなど、周囲から注意を受けることが多いです。その一方で、過集中に陥り、体力以上に仕事をしてしまう人もいます。
また、業務に優先順位をつけて、計画的に仕事を進めることが苦手なため、仕事を先延ばしにしたり、ためこんだりして、しばしば苦境に陥ることがあります。さらに、忘れ物や落とし物が多く、会社の重要な書類や鍵を紛失してしまうこともあります。
そして、スケジュール管理が苦手で、約束を忘れることや遅刻も多いので、職場の同僚や取引先に迷惑をかけてしまうこともあります。その他にも、確認すべきことを見落とし、ケアレスミスも頻繁に起こしてしまいがちで、職場では仕事のできない人と評価され、孤立してしまうことも多いです。
同じことの繰り返しを苦手と感じる人が多く、就労時間や業務内容が厳密に決まっている仕事では、苦しい思いをします。また、無意識に貧乏ゆすりや身体を触り続け、会話が止まらないため、職場において、ふるまいが良くないと評価されてしまうこともあります。
それから、その場の空気を読まずに、思っていることを不用意に発言することや、思い付きで衝動的に行動をしてしまうことも多く、周囲に誤解を与えて、辛い立場になることもあります。さらに、順番待ちや交通渋滞など、待つことが苦手で、落ち着きがなく、我慢のできない人と思われてしまうこともあります。
ADHDの特性は、弱みばかりではありません。ADHDの特性には、強みにあります。ここではADHDの人に向いている仕事をご紹介します。強みとなる特性を良い方向に活かすことで、向いている仕事に就くことができるかもしれません。
多動・衝動性の傾向の人の強みは、行動力があり、判断のスピードが速く、枠に捉われない発想力を持っています。そのため、スピード感を持って処理をする必要のある業務で、実力を発揮します。このような人に向いている仕事として、総務や人事などの事務職が挙げられます。
不注意および多動・衝動性のいずれの傾向の人であっても、高い集中力を強みとする人がいます。そのような人は、興味のある分野や対象に高い集中力を発揮することが可能で、本人の関心分野と職種の専門性が合致すれば、大きな成果をあげることができます。そのため、例えばITエンジニアやプログラマーといった専門性の高い仕事が向いていると言えるでしょう。
不注意の傾向の人は、作業中であっても、次から次へと取り留めのない考えやアイディアが湧いてくることが多く、そのことが不注意の原因となっていることもあります。しかし、この湧き出るアイディアにより、発想力や独創性の高い人も多く見られます。こうした強みを活かせる仕事としてクリエイティブ系の職業があります。特にデザイナーのような創造力が必要とされる仕事に強みを発揮します。
不注意や多動・衝動性を抱えるADHDの人の中には仕事に行き詰まりを感じている方が多くいます。ここでは、そのような、仕事で辛い思いをしているADHDの人に知ってほしい仕事術をご紹介します。
ADHDの特性を持つ人は、本人がどのようなミスを起こしがちなのか分かっているものです。そのため、想定されるミスを予防できる仕組みを予め作っておくことが大切です。そこで、ご紹介したいのは、GTD(Getting Things Done)というタスク管理手法です。
このタスク管理の目的は、仕事ですべきことを、自身の信頼できるシステムやツールに委ね、頭を空にして、心を水のように澄みきらせ、不安から解放されようというものです。
タスク管理を行って、システムやツールに全面的に依存した結果、ミスや見落としが少なくなり、仕事上の不安から解放されたと喜ぶADHDの人も多くいます。具体的にはどのようなタスク管理を行うのか、以下で見ていきましょう。
抜け漏れといったミスを繰り返すことで困っているなら、忘れても大丈夫なように、全ての業務を紙やPCに書き出しましょう。また、仕事の段取りが苦手な場合も、時間を確保したうえで、一つ一つの細かい手順に分解して、業務に取り掛かる前に書き出しておくことを、おすすめします。
このように、予め業務内容を書き出しておくことで、例え仕事中に記憶が薄れても記録があるので、抜け漏れの可能性を減らすことができます。そして、業務に取り組みやすいように、細かく具体的に分解した手順を確認しながら仕事を進められるので、業務の先送りが格段に減るというメリットもあります。
ADHDの特性を持つ人のなかには、期限を守ることが苦手な方も多くいます。期限を守れなければ、職場の同僚や上司のみならず、取引先にも迷惑をかけてしまうものです。こうした悩みを持つ人には、先手を打って自分で期限(納期)を決めることをおすすめします。
締め切りを守ることは、仕事をするうえで大切です。しかし、ADHDの特性を持つ人のなかには、会社から与えられた締め切りに焦点をあわせると、些細なアクシデントで間に合わなくなってしまう方も多くいます。そして、会社から与えられた締め切りに間に合わないと、罪悪感や自己嫌悪といった不安に苛まれてしまいます。
そこで、会社から与えられた締め切りの前に、自分の締め切りを設定し、その締め切りを守ることに焦点を合わせましょう。例えば、出勤時間なら1時間早めに設定します。そうすると、出勤途中で電車やバスなどの遅延やトラブルがあったとしても、出社時間に間に合い、安心感を持つことができます。
また、資料作成などの業務でも、提出期限よりも早めに自分の締め切りを設定しておくことで、自分の締め切りに遅れても、業務自体は進んでいるので、気持ちに余裕を持って焦らずにいられます。
さらに、自分の締め切りは守れなくても大丈夫と言い聞かせておけば、仮に自分の締め切りが守れなかったとしても、罪悪感や自己嫌悪に陥らずにすみます。自分の締め切りを設定することで、心のゆとりが生まれるので、会社から与えられた締め切りを守りやすくなり、気持ちを落ち着かせることができます。
マルチタスクとは、複数の業務を同時進行で実行することです。ADHDの特性のうち、特に多動・衝動性の傾向が強い人は、このマルチタスクを苦手としています。しかし、社会人であれば、仕事を同時並行しなければならない状況は多々あるものです。そこで、このような業務が苦手な方は、マルチタスクを細かく要素分解することを、おすすめします。
具体的には、業務を細かく分解していき、手順を一つひとつ順番にこなしていきます。一度にいくつもの業務に手を付けるのではなく、一つの業務を一手順ずつ進めていくことで、結果としてマルチタスクに近い成果をあげることができるのです。
ADHDの特性を持ちながら仕事をしている多くの方が、職場において様々な困難を経験しています。ケアレスミスが多く、大事な案件を忘れてしまうなどで、上司や同僚から信頼を失い、精神的に辛い思いをしている方が多くいます。
そこで、ADHDを抱えていて、仕事に行き詰まりを感じている方は、会社や上司に、ADHDの特性があることを申告し、サポートを求めましょう。そのうえで、上司と定期的な面談の機会を作ることを、おすすめします。
上司にADHDの症状を理解してもらうことで、周囲の理解を得て、助けを求められる環境を整えることができます。現在の仕事が、ADHDの症状で困難に感じているなら、担当する業務を調整してもらい、ADHDの特性に合わせて、本人の強みを活かせる仕事を割り振ってもらえるように、交渉しましょう。
また、自分からADHDであることを会社側に伝えづらい方もいらっしゃると思いますが、たとえ会社側や上司がADHDの症状に気付いても、本人には話をしづらいものです。そのため、自分から伝えることが大切です。そうすることで、周りの理解を得て、サポートを受けやすい環境が整うのです。そして、上司と面談をする際は、体調の変化もこまめに伝えて、体調の悪いときには、サポートを受けられるように配慮してもらいましょう。
では、どうすればADHDの人が障害特性を活かした仕事を見つけることが、できるのでしょうか。そこで、ご紹介したいのが、障害者雇用専門の転職エージェントへの登録です。
障害者雇用を専門とする転職エージェントは、様々な障害を抱える転職希望者のために、転職支援を行っています。紹介する求人も、障害者向けに特化しています。
サービスの利用の流れですが、最初に会員登録をすることから始まります。主にインターネットから登録を行います。情報の登録が完了すると、次に転職エージェントの相談員と面談を行うことになります。この面談は、おおむね1時間ほどが一般的で、通常はキャリアカウンセラーと一対一で話し合います。面談では、転職活動をするうえでの本人の希望に加え、気になっていることや不安なことなどを相談しましょう。例えば、転職を希望する企業側に対して、自分の障害について、どこまで話してよいのかなど、障害者の転職の専門家の視点から、アドバイスをもらうと良いでしょう。
そして、紹介を受けた求人の中から、エントリーしたい企業が決まったら、キャリアカウンセラーを通して、希望する企業にエントリーします。その際、キャリアカウンセラーから履歴書の書き方や、面接の対策などの助言を受けることもできます。
面接後は、転職エージェントで、求職者の面接における印象や評価を、企業側から聞いて、その情報を本人に伝えてくれます。仮に不採用であったとしても、教訓を活かして次回の面接に臨むことができます。そして、内定をもらえた場合も、転職エージェントによっては、入社をするまでの期間に、不安に感じていることなどを、相談員との話し合いの時間を設けてくれるところもあります。
転職エージェントのサポートは、転職先への入社後も続き、仕事で困ったなどの相談をすることができます。転職者が新しい職場で、働き続けることができるように、相談員が何かあればサポートしてくれるので安心です。
個人で障害者求人に応募して、転職活動をするのは不安が大きいという方には、転職エージェントは、非常に心強い存在となります。ADHDの人が障害特性を活かした仕事を探すなら、障害者雇用専門の転職エージェントへの登録をおすすめします。
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